【短編小説】私はもう一度妻に恋をする。#小説 #再起 #恋愛 #速読

【短編小説】私はもう一度妻に恋をする。#小説 #再起 #恋愛 #速読



【短編小説】私はもう一度妻に恋をする。#小説 #再起 #恋愛 #速読

私はもう一度妻に恋をする。

結婚して十年。
僕と妻の間には、いつのまにか「ありがとう」や「お疲れさま」という言葉が消えていた。

仕事から帰れば、テーブルの上に並ぶ夕飯。
「いただきます」と口にしながらも、頭の中は今日の失敗や、明日の会議のことでいっぱいだ。
育児や家事をこなす妻には感謝している。しかし、それを伝える余裕もなく、口から出てくるのは小言ばかり。
「子供たちにあげる果物だけでいくら使ってるんだよ。。」
「今日のごはんあまり美味しくなかった。。」
そんな言葉を投げつけるたび、妻の笑顔が少しずつ消えていった。

ある日、会社で大きなプロジェクトが失敗に終わった。責任を押しつけられ、心が完全に折れた。
電車の中で窓に映る自分の顔は、やつれ果てて、まるで抜け殻のようだった。
「もう、終わりにしてしまおうか」
そんな言葉が頭に浮かぶほど、心は疲れ切っていた。

その夜、眠れずにベランダに出た僕の後ろに、そっと足音がした。
「……やめて」
振り返ると、妻が泣きそうな顔で僕の腕を掴んでいた。
「あなたがいなくなったら、私、耐えられない。」
それでも無感情に妻を眺めるだけの僕を見て、妻は泣きながら無理やり笑った。
「私、頑張るから。ね?」
僕は答えられなかった。ただ、視線をそらすしかなかった。

その日から、妻はこれまで以上に明るく振る舞うようになった。
働けなくなった僕を責めることなく、「大丈夫だよ、なんとかなるよ」と笑い、子どもの前でも冗談を言って笑わせていた。
だが、わかっていた。彼女が余裕を装っているだけだと。通帳の残高は減る一方だ。

そしてある夜、トイレに起きたときのことだった。
リビングの明かりがついている。そっと覗くと、テーブルに突っ伏す妻の姿があった。
片手で頭を抱え、震える肩。声を殺して泣いている。
「ごめんね……私がもっと頑張らなきゃいけないのに」
その言葉を聞いた瞬間、胸を殴られたような衝撃が走った。

――俺は、何をしていたんだ。
結婚したとき、彼女を幸せにすると誓ったはずなのに。
不満ばかりぶつけて、支えられるばかりで、いつの間にか彼女を孤独にしていた。

気づけば、拳を固く握りしめていた。
「もう一度、初めからやり直そう」
彼女が愛した僕に戻る。そして彼女を、心から笑わせよう。
その笑顔を、もう二度と曇らせない。

僕は深呼吸をして、眠る妻の手をそっと握った。
温もりが伝わってくる。まだ間に合う。そう信じた。

――私は、もう一度妻に恋をする。

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